そしてまたトンボ帰り

日曜日までコロンボに居る予定だったけれど、
同任地の同期から電話。
「ナヤナのお父さんが亡くなったらしいよ」


ナヤナは俺の大家さん。
同じサムルディ事務所で働く同僚でもある。
職場では融通の効かない面も見せるけれど、
家に帰れば二人の子供のおかあさんとして頼りになる人。
旦那は韓国に出稼ぎ中で、寂しいと漏らすこともある。
井戸のポンプが故障しているので、夜中にたまに電源を入れ直しに行く時には、暗くて怖いから一緒に来てくれと俺を呼び出す。
虫やヒルが大嫌い。
俺のつまらない冗談にもよく笑ってくれる。
いつも元気なナヤナ。


そんなナヤナの悲しく落ち込んだ姿を見るのは辛かった。


連絡を受けてすぐに飛んで帰ったけれど、ナヤナの実家に着いたときにはお葬式は始まっていた。
後ろからこっそり様子を見ていた俺に気づいて駆け寄ってきて
「お父さんが亡くなったの・・・」


その一言を口にして泣き始めるナヤナ。
慰める言葉がない。



式の最後、棺桶を開いて故人の顔を近親者と対面させる。
そこに俺を呼び寄せて、
「顔を見てあげて・・・」
と苦しそうに言う。


泣き崩れる家族。
末の娘は叫び声をあげ、そして失神。


そんな中、お父さんの姿を心に焼き付けるかのごとく、顔から目を離さないナヤナ。
ナヤナが声をあげて泣きはじめたのは、棺桶が閉じられた時だった。