第二回 調停(監督署)

ネゴンボからウィールが来た。
警察での荷物引き渡しを、労働監督署での調停と同じ日に設定したのです。


そうすれば、荷物を持っていくのと同じウィールで、我々夫婦もネゴンボに向かえますから。


14時からの監督署での調停を前に、12時に警察署に。
時間を無駄にしたくなかったので、「今、ミーリガマを通過したから、あと30分ぐらいかな」と向こうのスーパーバイザーに連絡を入れた。


警察署に着いても、姿を見せない相手側。
電話をすると、「ボスが、警察からの連絡がなければ出向かないと言っている」なんて事を言う。
まったく、こっちの時間をムダにすることしか考えていない。


まぁ、仕方ないので警察から連絡を入れてもらう。
出てきた相手から、レターを受け取る。
「貸し出した物品二点を受け取った。全てのモノは返却済みと認め、今後は一切の請求をしない。また、コチラから先方への要求は何も無い」


まぁ、一応のコチラからの要求は書いてきてもらえたようだ。
これで充分ではあるのですが、コチラが準備してきたレターにもサインを貰うと妻が主張。


「内容は一緒なので、面倒でなければ」と警察官に言うと、警察官は「これにもサインして」と相手に差し出す。
シンハラ語で書かれたレター。
スーパーバイザーも特に確認すること無く、元上司に差し出す。
同じならサインする必要ない!!とでも言うかなと思ったのですが、意外にもすんなりとサイン。


まぁ、同じじゃないんですけどね。
このレター、内容は先方が持ってきたものとほぼ一緒ですが、言葉がもっとキツイのです。
「こちらからのクレームは全て終了したと認め、今後はその内容に関わらず一切のクレームや嫌がらせ、要求、請求はしないと宣誓する」と書かれているのです。
これでは、今から私が彼を殴っても何も出来ない。
で、なんとも馬鹿馬鹿しいことに、先方はレターのコピーすら求めてこない。


A4ペーパーに手書きで書かれたレターです。
余白は幾らでもあって、下端には先方のサインがきっちりと書かれている。
白紙にサインしたようなもんです。
まぁ、そんな事はしませんけど、この余白に「先方から借り受けた一億ルピーは今月末に支払います」とでも書いてしまえば、支払い義務が発生してしまうのです。
散々嫌がらせのような事をしておいて、このお粗末な結果。


これで、この問題は我々に有利な形で決着。
全く関係ない警官に「なに?モノ返すの?」と聞かれた。
今では全警察署員が事情を認知しているようだ。
「えぇ、必要ないものですし面倒事は終わらせたいので。それに、今から労働基準局に行くんですけど、こんな中古品の金額の何倍ものお金を取り戻しますから問題無いです」と言っておいた。


で、監督署。
我々が着くと、先方はすでに準備万端。
見ると弁護士がおじいちゃん弁護士から交代して、やり手っぽい人に代わっている。
受けて立とうじゃないか。


マダムに呼ばれ、部屋に入る。
どうも、この弁護士はマダムとも既知の仲らしく、「この弁護士さんだったら、今日中に調停してくれると思うわよ」と声を掛けてくれた。


で、マダムが聞く。
「7月分と8月分の未払い分は持ってきたの?」


「ええ、持ってきました」
おっと、意外です。
ただ、その次の言葉にがっかり。
「持ってきましたけど、依頼主はソレ以外はなにも払わないと言っています」


前回と何も変わらずです。


そこからマダムが説明をする。
「そうなると調停が進まないのよね。あなた方には裁判に持ち込まれたら勝てる要素が無いんだから、それをもう一度説明してもらえない?」
すると弁護士は言う。
「それは今からもう一度話をしますけど、多少の譲歩もお願いしたい。そのほうが理解を得られやすいので」


仕方ないので、「今日で全てを終わらせるなら、未払い分プラス一ヶ月半で良いですよ。今は3ヶ月分を要求してるので、その半分ということです」と伝える。


相手側は部屋を出て行き、相談開始。
その間、我々はマダムと雑談。
「あなた方も、裁判になったら数年単位で時間をムダにすることになるから、そのあたりは考えたほうが良いかもね」
勿論そのとおり。
「えぇ、正直3ヶ月分でも大した金額じゃないですから、そこには執着してません。ただ、先方になんの罰則的処置が無いのは納得出来ないだけです」と伝える。
「まぁ、そのことに関してはまた我々のほうで立入検査をする予定ではいるので、任せて欲しいわ」


そんな事を話ししているうちに10分経過。
再び入室してきた弁護士から「未払い分と一ヶ月分なら、と譲歩の姿勢を見せているのですが・・・」との反応。


仕方ないか。


「支払い遅延が二ヶ月にもなって、何度もキャンディからネゴンボに呼び出され、再引っ越しの支払いもコチラで持たされた。さらには完全な嘘で作られたクレームで警察にも出頭を命じられて、挙句一ヶ月分なの?まぁ、良いでしょう。面倒事を終わらせるのが今の一番の目的ですから」
これぐらいの愚痴を弁護士さんに言うぐらいは許してもらいたい。


弁護士さんも苦々しい顔でしたが、一応の決着を了承した我々に対して、感謝の意を述べてくれた。


内容を記した書類をマダムが作成し、双方のサインをして終了。


マダムがその時に言った。
「日本人は本当に礼儀正しく親切な人達よね」


その皮肉が彼には通じないんでしょうね。
「Yeeeeeeeees」と自信たっぷりに、日本人代表のように応える元上司。
マダムは苦笑い。
マダムと目があった私は、片目をつぶって首を振り「意味無いです。皮肉は通じません」と無言で伝えた。


なんにせよ、労働監督署の件も、警察の件も全て終了。
一部、望むべき形では無かった所はありますが、概ね満足の行く結果です。
「足るを知る」では無いですけど、お金をむしり取るのが目的ではないですし、嫌がらせも良しとしない。
定められたルールの中でゲームしましょうよ、ということです。
不正をしたならペナルティを受けるべきで、それを受けずして事を済ますのは良くないと思うだけです。


皆様には、色々とご迷惑、ご心配をお掛けしました。
アドバイスを頂いた諸先輩方には、感謝しきれません。
これを良い経験だと認識して、今後は不要な諍いには巻き込まれないように注意していきたいと思います。


ありがとうございました。