色んな意味で怖い話

久しぶりに実家に帰省した。
不在中にネット通販で注文した商品は、年老いた母親が受け取り床の間に山と積んでおいてくれていたようだ。
埃のたまった自室を掃除し、段ボール箱から取り出した注文の品を部屋に運び込む。
空になった箱は、取りあえずの置き場として車庫の上の倉庫に運ぶことにした。
ところ狭しと物の置かれた倉庫にスペースを作り空き箱を詰め込む。
倉庫を出ようとしたときに目の端に懐かしいものが映った。
小学校のランドセルだ。
懐かしくなって、つい背負ってみたり。
中に何か入っている?
自室に持ちかえり中を確認すると、アルトリコーダー
普通ならランドセルの中には入らない。
横に突き刺して持ち帰るのが当時のスタイルだ。
サイズ的に蓋が閉まらないから。
しかし空っぽのランドセルには斜めにすることで丁度納まるようだ。


ちょっとした遊び心で「これを背負ってコンビニに行ったら、店員さんどんな顔するかな?」と思ってしまい、止められなくなってしまった。
早速見つけたランドセルを背負って、横にリコーダーを刺して外に出る。
「知り合いに遭ったらなんと言おう」なんてことを考えていたが、それも杞憂に終わる。
何事も起きずにコンビニに着いてしまったのだ。
自動ドアが開き店内に入る。
「いらっしゃいませー」という掛け声からは生気を感じない。
ツナマヨのおにぎりを二個とペットボトルの緑茶を購入しレジに向かうのだが、そこに立っていたのは外国人の店員。
40を過ぎたオッサンがランドセルを背負っていることに違和感を感じるはずもない。
痛烈な敗北感を覚えたまま支払いを終え家へと戻る。


帰り道、おにぎりを食しながら「そもそも、相当にやばい見た目なのでは?」という疑問が突如として湧き上がり、自然と急ぎ足になる。
大股で歩きながら、角を曲がればもう自宅だというところまで来た時、左手に持っていたペットボトルが滑って飛んでいった。
行き先は『角の鈴木さん』の庭。
中身はほぼ空っぽではあるので、わざわざ取りに行く必要も無いと考えもしたが、見ようによっては他所の御宅にゴミを投げ捨てたともとれる。
いかにもそれはマズイ。
幸いにも塀は胸の高さほどだし、思いっきり手を伸ばせば取れないこともない。
誤算は、それを家主の奥方に見られてしまったことだ。
それに気づいたのはペットボトルを取って身体を起こした時なので、もう何も言い訳ができない。
救いなのは時刻が朝の5時という事で、かなり薄暗く人物の判別はつかないだろうという事。
急いで身体を起こし、家に戻る。
奥方は部屋のカーテンを開けたところで固まっていたし、急げば大丈夫。


しかし甘かった。
玄関への登り口に身体を向けて足を階段に掛けようとしたワタシの視界に、奥方が映った。
咄嗟に向きを戻し家を通り過ぎてしまった。


こうなったら家の裏に廻ろう。
我が家の裏には別の家が建ってはいるが、その家の庭から塀を越えれば我が家の庭に出られる。


しかし、そこでも問題がある。
「その家の人に見つかったら、、、」
結局、我が家を含む建て売り団地をぐるっと一周し『角の鈴木さん』のところまで戻って来てしまった。
このままでは、いかにも怪しい。
しばし考えた後、この目立つランドセルをごみステーションに放棄し塀の前を屈んで行くことに決めた。
静かに、でも急ぎ足で。
カーテンを開けたままの室内から誰かが覗いている気がするのだけれど、もう他に方法が無い。
家の前まで来て、一応後ろを確認したが人の気配はない。
階段を駆け上り玄関を開け部屋に戻る。


なんだか疲れた。
スリランカからの時差を考えても、本来なら寝ている時間だ。
そのままベッドに転がり込み、すぐに寝てしまった。


玄関の呼び鈴が数回鳴らされて目が覚めたのは、どのくらい時間が経過した頃だろうか。
眠い目をこすり玄関へと向かう。
「はーい」と口にしながらドアを開けるとそこには制服を着た警官二人と、私服の男が一人。
『そうか、結局は通報されたか』と心では思いながら「どうしました?」と聞く。
すると制服の一人が驚くべき事を言い出した。


『こちらに「ランドセルを背負った子供をおんぶした男が入っていくのが見えた」という通報がありまして、、、。昨日、隣町で小学生の男児が行方不明になっておりまして、一応確認に伺った次第です』


あぁ、そうゆう感じに見えたんだな。
確かに、こんなおっさんがランドセルを背負って歩くのは不自然だし。


経緯を説明し警官も納得してくれるだろうと思ったのだが私服の男が口を開いた。
「確認の為に、そのランドセルを見せて頂けますか?」


ランドセルはごみステーションだ。
「帰りがけに捨てて来たんですけど、まだ回収車が来る時間でも無いですし、すぐそこなので一緒に見に行きますか?」と応えた。


制服警官二人と私服の男、そしてワタシの四人で50mほど先にあるごみステーションに向かう。
この様子を見られるのですらキツイのだけれど、ワタシの遊び心が招いた事態だ。
致し方ない。


ごみステーションでランドセルを指差し「これです」と言うと私服が「蓋を開けて貰えますか?」と低い声で言った。


中にはペットボトルとおにぎりの包装フィルムしか入っていないのだが、そう言ったところで意味もないので開ける。


そこには男児と思われる切断された頭部が入っていた。







というとこで目が覚めた。
良かった。
ベッドから身体を起こし、自室を出て階段を降りる。


いやいや。
ワタシ、いまキャンディだし。
平屋だから階段とか家に無いから。
ここ実家だよね?
って事はまだ夢の中?


で、本当に目が覚めた。
というお話でした。


ちょっと怖かったです。
その後、まるで眠れませんでした。