ビール減税措置

先日の予算案でのヘッドラインでは、詳しいことは書かれていなかったのですが、どうもビールやワインの税金が下がったようだ。


アルコールのパーセンテージによって酒税を課す方式に転換するとか。


いままではビールとワインに対して、そのアルコール含有量に比べて過剰に課税されてたと言うことですね。
これに対して、財務省と保健省で意見が対立している。


1. 密造酒(主にカシップ)が二人に一人の割合で消費されていると言うのが、財務省の発表。
  ビールの税率を下げれば密造カシップからビールに消費が移行するというのが財務省の意見。
  これが実際には50%ではなく、6%以下まで下がっている為、大勢に影響が無いと保健省は主張する。
  さらにビールとカシップの飲酒文化は大きく異なるので、その両者がオーバーラップしている飲酒人口は非常に少数だと。
  つまり、ビールの税率を下げてもカシップからは移行しないという事が言いたいのだろう。


2. 多くの国ではビールが酒消費のメインストリームだが、スリランカは異なるというのが、財務省の発表。
  なのでスピリッツ類からビールに移行させようというのが財務省の狙い。
  これに対しても、保健省は異なる見解。
  ヨーロッパとアジア諸国ではビールの文化が異なると。
  ヨーロッパではビールは食事の一部。
  アジアでは興奮するために飲む。
  ここが異なる、と。
  さらに、もともと酒を飲む人口が少ないスリランカでは、値段が下がると逆に飲まない人を刺激して全体の飲酒人口を増やしてしまうのではないかと言う主張。
  そして、ビールからワイン、スピリッツに移行していくと。


3. アルコールにリーチしやすいと言うのが現代国家だと財務省
  よくわかりませんが、そうなんですか?
  これに対しては、ビールの値段を下げて販売店舗を増やせば、深刻な健康被害が増加すると。
  WHOの発表によると、2015年のアルコールを原因とする保険支出は1200億ルピーにおよび、これは酒による税収を上回ると。
  ホントですか?
  さらには、家庭内暴力や事故、自殺なんかも増えるだろうと。


4. 減税によって飲酒による健康被害が減ると言う科学的根拠が提出されるまでは、現状維持が望ましいと保健省。
  タバコと同じように価格が上がれば消費量は減ると言うのが、WHOの見解だと。
  観光客のためにツーリストホテルではライセンスなしに販売が出来るようにするというのは、意味が無いと。
  彼らは十分に飲んだり買ったりする場所がある。
  どこでも買える様になって、消費が増えるのはスリランカ人に対してだと。
  アルコールを飲むためにスリランカに来る人はいないってことらしいです。


5. アルコールのパーセンテージによって税率を変えるというのは、シンプルすぎる。
  アルコールの含有量、売り上げに対する課税、販売数量に対する課税など、各種税制を組み合わせることは可能で、専門的な調査を行ったうえでの課税措置が望ましいというのが保健省の見解。


以上、財務省と保健省の意見が悉く異なっているので、以下に私見を述べたい。


まず、1.で保健省が主張している「カシップとビールとでは飲酒文化が異なる」という主張。
おおむね正しいと思う。
だからこそ、2.で主張している「飲まない人を刺激して全体の飲酒人口を増やしてしまう」というのは違うと思う。
飲まない人は飲まない。
ビールを入り口としてワイン、スピリッツへ移行するというのは、まさに大麻などのソフトドラッグからヘロインなどのハードドラックへ移行していくという「ゲートウェイ理論」を思い起こさせる。
これは非常に良く語られる理論。
実際にハードドラックを使用する人はソフトドラッグを入り口にした人も多い。
このゲートウェイシークエンス自体は頻繁に観察されるが、実際の因果関係は不明。
というのは、ソフトドラッグで止まり、ハードドラックに移行しない人も多いからだ。
実際、ソフトドラッグを締め出せばハードドラックの使用者が減少すると言うことは無い。
つまり、酒でも同じこと。


3.に関しては、よくわからん。
アルコールの入手しやすさと国家の発展度は関係ないだろうし、そこで「現代国家になりました」って言われても、「他にやることあるでしょ?」と言いたくなる。
1200億ルピーの保険関連支出というのも、出展がなんでWHOなの?
保健省なんだから、自前でデータを持っているはずだし、それを提出しないことにはWHOも調査できないでしょ?
なんかWHOという名を借りた狐って感じで、違和感。


4.は至極もっとも。
ライセンスなしでツーリストホテルなどで出せるようにしても、購入するのは町の酒屋。
仕入れ価格が下がらない以上、中間マージンが付与されるだけで、ツーリストにもメリットは少ない。
ということは飲酒習慣のあるスリランカ人にとってもメリットは無いわけです。


5.これは、どうですかね?
「良い税金」というのは「公平」「中立」「簡素」が基本。
「公平」とは、人々がそれぞれの負担能力に応じて分かち合える状況。
「中立」とは、特定の人々や団体の経済活動の選択をゆがめないこと。
「簡素」とは、納税者の理解しやすい仕組みを作り出すこと。


公平性を求めると簡素さが無くなる。
簡素にすると公平性が犠牲にされる。


そこのバランスが難しいのです。
簡素から遠くなると、徴税に対するコストも上がる。
そういう意味でも、酒税やタバコ税なんていうのはシンプルに限るのです。


長くなったので、おしまい。
個人的には安くなって嬉しい限り。