降りかかる火の粉

コロンボに居ます。
たくさんのランカ人を乗せたバスというのはドラマの宝庫。
喜怒哀楽。
様々な表情を見せてくれます。


最寄の町ピリマタラーワからバスに乗ってコロンボに。
バスは超満員であいてる席は最前列の補助席のみ。
補助席はすわり心地が悪くてあまり好きではないが、一番前というのはまだまし。
前方にスペースがあるので足が伸ばせるからだ。


しばらくすると隣の男性がバスを降りていった。
ラッキー。
早速、席を移動し、最前列の通路側を確保。
隣は綺麗なおねえちゃん。
ラッキー。
ランカで若い女の子が一人で移動するなんて珍しい。
可愛らしい寝顔を盗み見ながら、イヤホンで音楽を聴いていた俺もいつしか眠りの世界に。


どれぐらい走っただろうか。
おねえちゃんの動く気配に目を覚まし、なんとなく観察しはじめた。
チョコバーを食べるおねえちゃん。
続いてパティスを食い始めたかと思うと、連続で二つ。
さらにみかん。
そしてマンゴーのジュース。
えらい食欲だな。
ほっそりして見えるけど、もしかしてお腹に赤ちゃんでもいるのかな?
そんな事を考えていると、彼女の栄養補給は終了し、また眠りの世界に。
俺も引きずられるように目を閉じる。


次に目を覚ましたのは、もの凄い揺れによって。
急ブレーキ、左右への揺さぶり。
そして急停車。
どうもムリな追い越しの際、バイクと接触しそうになったようだ。
そのバイクから血相をかえてバスに乗り込んできた男性。
運転手に食ってかかっている。
眠りを妨げられた俺は機嫌が悪かったが、そこはボランティア精神の発露ということで仲裁に入る。


『おれたちコロンボに行く途中だし、遅くなるから。もういいだろ?』
それでも止めないバイク兄ちゃん。

そこでもう一発。
『だから、遅くなるから。ね?』

なんだこの余計なお世話の外国人は?という目で見られ、まったく話を聞いてくれない。
おかしな外国人で結構。
喧嘩してるのが馬鹿らしいと感じてくれればそれでいいのだ。
しかし収拾がつかない。
作戦変更。


口汚く罵り合うバイク兄ちゃんとバス運転手。
バイク
『いいから降りて来い!俺の兄貴は警察官だ。いまから呼んでやるぞ!!』

『プッ・・・・w』


バイク
『誰だ今笑ったの?』


俺は前傾姿勢であごの下で手を組みながら、ニヤニヤして見てた。
ま、完全に賑やかしというか、冷やかし。


関係ない通行人や他の乗客も参加して、徐々にヒートアップ。
また作戦を間違えたみたいだ。


俺は笑いを堪え切れず、ニヤニヤプップとその状況を楽しんでいた。
それも5分ぐらいで収束し、バスはスタート。


となりのおねえちゃんを見ると、引きつった顔でコーラを飲んでいた。
いつ自分に火の粉が飛んでくるか分からない状況でコーラ。
余程お腹が空いてるのね。

まぁ、こんな事は日常茶飯事。
文章も長くなってきたが、ここからがドラマの本番。




穏やかな時間が訪れ、イヤホンで爆音の音楽を聴きながら目を閉じる俺。


ふと顔に飛沫が飛んできたのを感じた。
隣のおねえちゃんが、またコーラでも飲んでるのかな?
ふたを開けたときに飛んできたのかな?
最初はそう思った。
そして次に思ったのは、みかんかなってこと。
さっき食べてたしね。
皮をむいたときに飛沫が飛んだのかなって・・・。


目を開けておねえちゃんの方を確認すると、
苦しそうな顔で口元を手で押さえている。
その指の間からは、乳白色の液体が・・・。


『えっ?』
その選択肢は考え付かなかったな。


胃の奥から逆流する液体をムリに押さえ込もうとしたのだろう。
手で押さえたその隙間から、勢いあまって飛び散ったゲロ。


勘弁してくれ。


周りの対応が素晴らしい。
すぐに手渡されるティッシュとゲロ袋。
俺にもティッシュをくれた。
顔と髪の毛、ズボンに服。
慌てず騒がず。
ゆっくりと掃除する。
見ると、通路を挟んだ反対側の乗客も足をぬぐっていた。
凄い飛距離だ。


まさに『ゲロスプラッシュ』。


俺もゲロ袋をもらい、服を突っ込む。
重ね着してたから下のTシャツは無事だ。


おねえちゃんを見ると可愛らしい顔をゆがめて、小さくなっている。
こんなに恥ずかしい出来事も無いだろう。
自分のゲロを他人に浴びせかけたんだから。
そこは俺も紳士。
『おい、ねえちゃん。この後始末どないしてくれるんや!?』
なんて事は言わずに、なにも無かったように目を閉じる。








その時の俺の心理はと言うと、
『衆人環視の中で年頃の女の子がゲロを吐いたんだ。こんなに恥ずかしいことはないだろう。そっとしておいてあげよう』
が80%。




『でも、ゲロを撒き散らしたんだから、ごめんなさいの一言ぐらいあってもいいんじゃないの?』
が10%。






あとの少数要素は、
『バスに乗ってるときに食べ過ぎちゃ駄目なんだな』
が4%。




『気をつけないと、俺も貰いゲロしそう』
が3%。




『さっき図らずもお腹に子どもがいるのかな?って思ったけど、だとしたら俺が言うべき言葉は「手ぇついて詫び入れろヤ」では無く「ご懐妊おめでとうございます」なのか?』
が2%。






そして最後の1%。
『こんだけ綺麗な女の子にゲロを浴びせかけられる。スカトロマニアには堪らない状況なんだろうな。確かに、ちょっと興奮するし。』
でした。




まぁ、結局何が言いたかったかと言うと、
降りかかったのは火の粉ではなく、ゲロだったと言うこと。
あと、性の嗜好にタブーは無いって事。


以上、スリランカの新アトラクション。
『ゲロスプラッシュ マウンテン』のリポートをお送りしました。