国民の分断という罪

この五ヶ月で30万人ものパスポート申請があり実際に出国した人数も12万人にのぼるスリランカの現状。


バンダラナイケ国際空港の出発ロビーエントランス前で撮られた人混みの写真がSNSにアップされていたのですが、まぁ大混雑。
見送りの人が大半なのだとは思いますが、そこはメディアばりの言わない権利、伝えない権利ってことでSNS上では「こんなにも出国する人が、、、」なんてキャプションが付いていた。


対するコメントでは、殆どが政府批判によって占められていたのですが、中には「出ていくのは良いが二度と帰って来るなよ」という感じのものも。


これが政権支持者のコメントで無いとしたら、結構な分断の危機です。
ラージャパクサ反対を唱える人の中にも、勿論ですが格差がある。
仕事の有る無し、老いたもの若いもの、子供の有無、そして海外への出稼ぎが可能なのか不可能なのか。
同じお題目を掲げて政権と対立していたのに、出稼ぎに行けない人からすれば出ていく人に対して嫉妬のようなものが産まれるのも理解できる。
すると「厳しいからと逃げるなら二度と帰って来るな」という気持ちにもなるでしょう。
本人も出ていくチャンスがあれば行くとは思うけどね。
それは「出ていけない」では無く「出ていかない」に変換されているのです。
そうしてGotaGoHomeで団結していた人たちの間に亀裂が生じる。
飽きっぽいしね、仕方のないことですが、GotaGoGamaは今では数十人規模です。
人よりテントの方が多いんでは。


これ、ホントに多くの問題を孕んでいる。
まずは、ずっとこの状態が続くと、出稼ぎに出やすい高度教育を受けた人材と単純労働を担う若者ばかりが出国してしまい、国の労働リソースが劣化減少する。
国に残った側でも「本当は出稼ぎに出たい」という労働意欲はあるけどチャンスや能力の問題で弾かれた人と、そもそも労働意欲の無い人に分けられる。
前者はまだ良い。
出稼ぎに出た人の分だけ国内での就労機会は増えるし、そのうち仕事にありつける。
後者は酒や薬に手を出す機会が増え、その資金を犯罪行為で賄おうとしだす。
つまり治安の悪化。


スリランカ人は貯蓄しない(できない)人が多いですし、経済悪化はすぐに治安の悪化に繋がります。
インフレ基調の国ですし、まとまったお金を手元に残すより土地や家を買った方が資産となりやすい。
ルピー安で金利分が吹っ飛ぶことを考えれば、不動産にしておいた方がマシという理屈です。
セメント代や人件費も年々上昇してましたしね。
あと、家があれば子供が地元に残りやすいとか、銀行の破綻事例があったりして信用できないとか、色々な理由はある。


で、この経済危機でしょ。
車をローンで買った人は、返済に苦しみだして売ることを決意。
元々が無謀な支払い設定だったり、高金利ローンだったり。
それが収入そのまま、生活コスト上昇で支払いに困窮。
変動金利ローンだった人は、インフレ対策で政策金利も上げられて、踏んだり蹴ったり。
乗用車の輸入停止で車の需要はあるので、場合によっては購入価格よりも高く売れたなんて話もあった。
当初はね。
それも一時の事で、いまじゃ需給バランスは崩れ、リセールバリューは下落傾向。
車を手放してローンだけが残る。


これと同じ流れが今度は不動産市場で起きている。
ルピー建ての土地単価が凄い勢いで上昇しています。
ドル換算では、そうでも無いんですけどね。
これが、海外出稼ぎが増えると「至急」で売りたい物件が増え、結果として値下がりする。


妻の職場の同期7人(妻を抜いて)で、海外への出稼ぎを考えて居ない人は、0人。
ワタシの妻だけです。
「日本でチャンスがあれば行っても良いかもね」っていう軽いスタンスなのは。
勤務中に全員が出稼ぎ情報を検索している(もしくはYouTubeでドラマみてるか)。
実際に同期の一人は旦那さんの出稼ぎが決まったらしく、仕事を辞めてついて行くことにしたとか。
聞いててこっちが不安になる。
だって、契約期間一年だって言うのよ。
よっぽど稼ぎが良いか、自動延長できるとかなのか。
ITエンジニアらしいので食いっぱぐれは無いのかも知れませんが。
妻には冗談で言いました。
「同期全員が出稼ぎに行ったら、自動的に出世コースだね」って。


なんにせよ、経済危機が起きると国民分断を推し進めて不満の矛槍を逸らしたり勢力の縮小を狙ったりするのは、常套手段です。
腐っても大英帝国に統治されてた国ですから。
分割統治は伝統的手法なのです。


民間バスの稼働率は全体の20%以下。
「今後三週間は厳しくなる」と言う新首相には「もう既に限界です」という国民の声は届かない。
雨が降るたびに「水力発電の発電量が増えます」と、電力庁によるプレスリリースが発表される。
そんなサルでも理解できる現象に果たしてニュース価値があるんですか?というレベルですが、たしかに良いニュースなので喜ぶ自分も居て、なんとも情けない。