勤労の義務

妻と「教育問題」の話しになった。
きっかけは、親戚の家庭問題。
「なんで、あんなバカなこと(自身の嫁妹へのわいせつ行為)するんだろうね?」と。


私は「恐らく、彼にとって大事なものが今の人生に無いんじゃないの?」と答えた。
土地も財産も、今後出世する見込みも無い。
新妻のことも愛していないのかもしれない。


そこで「やっぱり教育って家庭でも学校でも大事だよね」となって、義務教育の話になった。


日本では「納税」「勤労」「教育を受けさせる義務」というのがあって、うんぬんかんぬん。
そこから、それぞれの義務について話をした。

「納税」は義務として理解し易い。
「勤労」って?
「働く事が義務なの? じゃぁ、年を取って働けなくなったら捕まっちゃうの?」との質問。
これを説明する前に「教育を受けさせる義務」について説明した。


教育に関しては、義務を課せられているのは行政とか。
子供にとって教育は「権利」であって「義務」ではない。
行政が制度や環境を整えている以上、子供が不登校であっても「義務違反」には当たらない。
つまり、憲法で規定されている「義務」は権力側への制限事項として存在しているということなのですね。
解かりにくいか?


つまり、例えば国が「国家の威信を回復するために、国民は皆、労働に励め」とか言えないようにってこと。
子供には教育を受ける権利があり、国にはそれを受けさせる義務があるのだから、子供に対して強制徴用とかできませんよって事。
あと、制度とか環境を整えなくてはならないってことは、国や行政は日本中いたるところに小中学校を設置しなくてはならない。
国政で大きな権力を持った政治家が居ても居なくても、都会でも過疎の田舎でも。


こういった感じで、国や権力者の力を制限する事に主眼を置くと「教育を受けさせる義務」の存在価値が見えてくるし、「制限事項」と書いた意味も理解しやすいかと。


で、「勤労の義務」に関して。
これも本当のところは「勤労の権利を有し、義務を負ふ」となっている。
これは日本国憲法を制定する際に参照したワイマール憲法スターリン憲法に、同じような内容があるので、そこから起草されたものだろうと思われる。
ただし、最初の政府案では「勤労の権利を有する」とだけ書かれていたらしい。


そこに「義務」という文言が再登場した経緯は不明。


私有財産の所有も認められ、職業選択の自由もある状態で、不労所得で生活する事が充分に可能な人たちが居る事も想定されていたはず。
なのに敢えて義務化したのは「道徳的な義務」としての規定なのではないでしょうか。
なので、ある意味「努力目標」的な感じ?


他方で、先ほどの「教育を受けさせる義務」のような考え方をすると、国に対して「働く場」を用意することを規定しているとも考えられる。
労働市場を国が管理している訳では無いので、全ての失業者に雇用機会を提供する事は難しいけれど、「職業安定法」なんかの整備はその一環とも考えられるし、もっと大きな枠組みで考えると、雇用の安定、すなわち経済の安定を国がしっかりやりなさいよ、ということになる。


『「納税」の義務があるのだから「勤労」の義務は必要ない』という話もあるらしい。
どうも不労所得で生活している人や、失業者、障害のために働けない人などに不快感を与える、というのが理由らしい。


これも「国に対する制限」と考えると、問題ない気がします。
そもそも「憲法」って国民が直接的に遵守するべき内容が書かれているものでは無い。


憲法の99条。
ここには憲法を擁護し尊重するべき対象が、義務規定として書かれている。
曰く「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」


ご覧の通り、この中に国民は含まれていない。
ちなみに現行憲法の基になったワイマール憲法を踏襲するドイツの憲法には、国民が含まれる。


ということは、ですよ。
私の実兄(45歳のニートかつ童貞)が「勤労の義務」を理由に逮捕される事もないですし、不登校の児童が居るからと言って、もちろんその児童が補導される事も、親が逮捕される事も無い。


と、ここまで来ると「納税」の義務だけ異質な感じがしますよね。
他の二つは「国家権力への制限」と言うことで理解できましたけど、「納税」に関してはちょっと毛色が違う。
「納税」する事が「制限」?


これも本文を見れば、ある種の誤解があることが解かる。
曰く「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」となっています。
国家に対する制限として「法律の定め」を規定しているのです。
つまり、国が財政負担に耐えかねても「じゃぁ明日から消費税は倍額徴収します」とはできないってこと。
ちゃんと国会での審議を経て可決されなければならない。
消費税増税も、「我々が選出した」お偉い国会議員様が、慎重な審議を重ねた結果です。
行政が一方的に決めたものではないのです。


と、最後の「納税」に関しては蛇足ですが、その前段階までを妻に説明した。
ちょっと凄くないですか?
これだけの内容を100%とは言わないまでも、妻に理解させる私のシンハラ語レベル。
凄い時間掛かったけどね。