預かり荷物

庶民の足としてスリランカ国内の隅々に存在する路線バス。
ローカルバスでのよくある風景として、立っている乗客が座っている乗客の膝の上に荷物を置くという光景がある。


何も言わず、そして何も言い返さず・・・。
ごく自然にカバンや買い物袋、時には小さな子供までも全くの他人の膝の上に載せていく。
カバンを背負ったり、手に荷物を持っていては狭い車内空間を有効に使えないし、両手で手すりを持っていなければ運転の荒いスリランカバスでは思わぬ怪我につながりかねない。
そんな状況を考えれば、非常に合理的なシステムだと思う。


バスに乗った瞬間に膝上にスペースのある乗客を目ざとく見つけ、当たり前のように乗せる。


乗せられたほうも心得たもので、
「手に持っているもう一つの荷物もこっちに寄こせ」とばかりに手を伸ばす。


今日のミーティングの帰り。
乗降口に一番近い席に座っていた俺。
途中のバス停でプラスティック製品を山のように抱えた20代と思われる男性に、いきなり荷物を渡された。
もちろん俺は驚きもせずに、すべてを受け入れる。
不思議なもので、荷物を預けられた瞬間からその荷物に対する責任感のようなものが芽生える。
バスの中は大混雑。
預けた本人は人ごみにまみれて俺の視界から消える。
俺の下りるバス停はすぐそこ。


俺は慌てずに隣のおばちゃんに荷物を託す。
おばちゃんは、ニコリと微笑んで荷物を抱き抱え、俺の通るスペースを空けてくれる。
「あなたの仕事は私が引き受けたわ。な〜に大丈夫。私が降りるときには別の客に託すから心配は無用だよ。私太ってるから、ちょっと通りずらいかもしれないけど、この隙間をお通り」



俺の心には、そんな言葉が聞こえてきた。